股関節痛の謎~サッカーの動作に着目して~
股関節痛の謎
~サッカーの動作に着目して~
まず、鼠径部痛症候群という名前を聞いたことがある方は少ないかと思います。疾患の大まかな概念としては、“股関節周囲の痛みの明かな器質的疾患のない、機能的な痛みをおこす症候群”です。
※器質的疾患とは…組織や細胞の変形や変性、破壊などが起こる疾患のこと。
つまり画像所見などで何らかの変化が確認でき、それによって症状が誘発されている疾患のことです。
今回取り上げる鼠径部痛症候群は骨折や肉離れ、鼠径ヘルニアなどの明かな変化がないにも関わらず、股関節周辺の痛みがみられるものを呼びます。
○解剖学
股関節は骨盤と大腿骨からなる関節です。実際の形状を見ても分かるように半円状の受け皿と、球状の大腿骨頭からなるため関節の動きは比較的大きく、周囲の靭帯や筋で安定性を作り出しています。
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図1
![](https://hmh.or.jp/seikei/wp-content/uploads/sites/3/2019/07/041c8e89b678b46731ac2144bc87c2e7-e1564491513147.png)
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図2 図3
○症状
自覚症状:日常生活では痛みは少なく、運動時に中等度以上の痛みがあります。→但し、悪化すると一時的に日常生活でも痛い場合があります。部位は図4を参照。
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図4
他覚症状:体幹から股関節の可動性、安定性、協調性の機能不全が起きます。
・股関節外転筋力低下(図5)
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片脚立位で荷重側の股関節外転筋力低下による非荷重側の骨盤沈下がみられます。(トレンデレンブルグ徴候)
図5
・Positive standing signの遊脚側の痛み(図6)
片脚立位体前屈→浮いている側の股関節の痛みで陽性になります。
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図6
○種目別割合
キックなどによる股関節の動きが多い競技が症例として多くみられます。(図7)
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図7
○股関節周辺の機能不全とは
体幹から下肢の可動性や安定性、協調性に狂いが生じている状態です。
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図8
例えば…図8のようにサッカーのキック動作においては、軸足側の股関節外転筋力が十分で、体幹の軸が安定しており、キックする脚と反対側の肩甲帯とキックする脚が体幹と骨盤を介して連動している必要があります。この連動性が崩れた状態でプレーを行うことで鼠径部周辺に痛みが生じてきます。
○機能不全を起こす要因
外傷、障害による動作の崩れが大きいと考えられています。多くの人がどこかに痛みや違和感を抱えるとそれをかばう代償的な動きをとってしまいます。そのことにより本来の連動した動きから逸脱し、股関節や周辺の組織への過剰な負荷がかかった結果、機能不全を起こしてしまいます。
以下にサッカーにおける上肢の機能不全を起こした動作の例を挙げます。
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この写真の場合は上肢の怪我や機能障害により、上半身がうまく動かすことができない状態でのキック動作です。ここまでの制限はなくても、上肢や体幹の機能不全によって連動した動きが破綻してしまうと、股関節への過負荷となってしまいます。
図9
○予防として行えること
鼠径部痛症候群の予防として普段から行えることをいくつか紹介します。しかし、体のどこかに痛みや違和感を感じる場合や、体調が優れない方は回数を減らすか、無理に行わないようにしてください。
①クロスモーション
この運動はまず安定した物(ゴールポストや机、人、壁など)を振り脚側の手で支えにします。そして振り脚をまず後ろに引いて胸も同時に開き、左手も斜め上に開きます。
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開ききったところから振り脚を大きく前方に蹴り出すと同時に、体幹も閉じていきながら左手を右腰側に近づけ、体を捻じるようにします。 腕を大きく使うことと体の回旋を意識して行うことがポイントです。普段から左右10回程度行ってください。
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②クロスモーション歩行
上のクロスモーションの応用で両手を腰に当て、肩を左右に振りながら歩きます。自然と体幹の捻じれが起こり、上肢・体幹・下肢と連動した動きが練習できます。
20歩程度行いましょう。
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③胸郭肩甲帯回旋
この運動は体幹部分を開きやすくする運動です。まず、写真のように四つ這いになり、片方の手を頭の後ろに当て、肘を支えている手に近づけます。
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それから肘を天井に向かって開いていき、胸も開くようにします。このとき腰を丸めたり、支えている側の肘が曲がらないように注意しましょう。
左右10回程度行いましょう。
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④四つ這いから手伸ばし
胸郭回旋運動と同じく四つ這いになります。
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そのあと片方の手を肘を伸ばしたまま横に広げ、天井の方向に向かって体幹を回旋していきます。このとき目で指先を追いかけていきます。
左右10回ずつ行いましょう。
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⑤オーバーヘッドスクワット
この運動は両手を耳の高さまで上げ、背中を丸めずにお尻を軽く後ろに引きながら、股関節と膝を曲げていきます。このとき股関節と膝が90°くらいで、指先からお尻までと、くるぶしから膝までが平行になるようにします。正面から見た際に、膝とつま先が真っ直ぐ向いているのが正解です。
5~10回程度行いましょう。
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⑥シングルレッグスクワット
最後は先ほどのスクワットの片脚バージョンです。片脚で股関節、膝関節90°位に曲げていき、左右にぐらつかないように気をつけます。両足よりも不安定なので、その中で姿勢が崩れないようにしましょう。
左右とも5~10回程度行いましょう。
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○まとめ
今回サッカーのキック動作を中心に鼠径部痛症候群について説明しましたが、競技に限らず何らかの機能不全から股関節周辺の痛みや違和感を抱えている人も少なくないと思われます。まずは股関節周辺の痛みがある場合は医療機関への受診をお勧めします。
適切な検査や評価により、痛みの原因を見つけ出すことができます。中には変形性股関節症や大腿骨頸部骨折、難病でもある特発性大腿骨頭壊死などもあるため、しかるべき診断を受けることが重要です。
○参考文献
1)坂井健雄,他:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系,p378,医学書院:2007
2)嶋田智明,他:筋骨格系のキネシオロジー,p431-,医歯薬出版株式会社:2005
3)仁賀定雄:月刊スポーツメディスン 157(清家輝文,編集),p2-20,29-32,(有)ブックハウスエイチディ:2014