足関節捻挫について
足関節捻挫について
○足関節内反捻挫
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足関節内反捻挫はスポーツ活動で最も多発する外傷のひとつです。受傷後の治癒が不十分な状態であっても痛みに耐えつつ活動ができるため軽視されがちなケガと思われる傾向にありますが、不完全な状態で活動を再開することにより不安定性・筋力低下・可動域制限・代償運動・ステップ動作やフォームの異常などが残り、様々な機能低下や痛み、捻挫の再発などの後遺症を招きやすいのが特徴です。
足関節内反捻挫は一般的に「内返し」の強制により起こり、前距腓靭帯や踵腓靭帯などの損傷を招きます。代表的な非接触型外傷として知られています。
○足関節の構造
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足関節を構成する主な関節には、距腿関節、距骨下関節があります。その中でも、今回は距腿関節について詳しく説明していきます。距腿関節を形成する骨には距骨、腓骨、脛骨があります。距腿関節は内・外の踝(くるぶし)と脛骨の遠位端によって形成された四角形の腔所と距骨側面および滑車面との間の連結によって形成されます。いわゆる「ほぞ継ぎ」と呼ばれています。ほぞ継ぎの近位の凹形は腓骨に脛骨を結びつける結合組織によって保持されています。
距腿関節を補強する組織として関節包があり、関節包の外では、距骨が過剰に内返しや外返しをして傾斜しないように側副靭帯があります。内側の靭帯は三角靭帯とよばれ、強力な靭帯です。この靭帯は3つの表在繊維の扇状の基部となって三角靭帯の頂点は内果に付着します。三角靭帯の主要な機能は距腿関節、距骨下関節、距舟関節による外返しの制動で、この靭帯の捻挫は靭帯そのものが強靭であることに加え、外返しには骨性の制限もあるため比較的希なことで知られています。
外側の側副靭帯としては、前・後距腓靭帯、踵腓靭帯があります。内果が十分に距骨の内側壁をブロックすることが相対的にできないため、足部捻挫の大部分は過剰な内返しにより外側側副靭帯の損傷をもたらします。
前距腓靭帯は、外果前縁から起こり、前内方にむかって距骨頸に付着します。この靭帯は、外側側副靭帯のなかで最も頻繁に損傷されます。靭帯損傷は、特に底屈を伴う足関節の過剰な内がえしあるいは内転によっておこります。
踵腓靭帯は、外果頂点から踵骨外側へと後下方に走行する。この靭帯は距腿関節と距骨下関節を横切り、内返しを制限します。踵腓靭帯と前距腓靭帯はともに底屈と背屈の可動域の大部分で内返しを制限します。
後距腓靭帯は外果の後内側にまっすぐ距腿関節の後面に向かって水平に走行します。後距腓靭帯の第1の機能はほぞ継ぎの中で距骨を安定させることであり、特に足関節が完全に背屈されると、この靭帯により距骨の過剰な外転は制限されます。
○足関節のアライメント
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足関節のタイプとして大きく3つに分類されます。
正常な足関節は約5°回内しています。しかし、内反捻挫を繰り返し慢性的な足関節の不安定性を呈している場合、足関節は回外位となっている場合が多くみられます。その原因としては、内反捻挫による外側側副靭帯の緩みや、足関節回内機能を持つ腓骨筋群や総趾伸筋の機能低下などがあげられます。
また、運動連鎖という概念があり、これは一つの関節の動きが隣の関節に影響を及ぼすことを言います。(下図参照)
足関節捻挫を繰り返している場合、足関節のアライメントの破綻が生じることが多く、足関節から他関節へ影響を及ぼす例が少なくありません。また、足関節のアライメントは足底の荷重傾向にも影響するため、下肢全体の筋機能に大きく関わります。それゆえに足関節の異常から下肢の障害(シンスプリント、腓骨筋腱炎、足関節インピンジメントなど)につながることがあります。
足関節捻挫は放っておいても痛みがとれることが多いため軽視されがちな外傷ですが、再発のリスクが高いことや他部位への悪影響などを考慮すると、治療が非常に重要な外傷であるということがいえます。
○足関節内反捻挫の治療
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・急性期
受傷直後の処置はいわゆる「RICE処置」が基本となります。靭帯損傷には末梢血管の損傷も伴うことから、受傷直後にまず受傷した靭帯組織付近の止血を最優先します。末梢血管の損傷時の止血処置は①安静、
拳上位の確保の後、②テーピングパッドや包帯を用いて局所を圧迫することにより、損傷した組織の止血を図ります。また、これと同時に③氷をビニール袋に平らに入れて、④圧迫開始から3~5分のうちに氷を患部にあて、バンドや包帯で固定し、20~30分間安静にします。受傷後72時間はできる限り①~④を一日4、5回行います。
・亜急性期
亜急性期は受傷後2~4日経過し、腫脹は残存しているが、熱感は消失した状態をいいます。
この時期は炎症再燃による腫脹の増悪を未然に防ぎつつ、さらに腫脹の吸収を促進するためにパッドによる患部の圧迫とテーピング固定を施した状態での運動療法を主に行います。(当院では症状に応じてサポーターを用いることもあります。)
また、運動療法の例として、足関節背屈制限の要因となる底屈筋群の伸張性の向上を図るため、ストレッチボードを用いたり、足部の関節の剛性を高め、距腿関節の安定性を向上させるためにタオルを用いたエクササイズを行ったりします。
・回復期
腫脹の軽減した回復期では、積極的なROM訓練や筋機能訓練を図ります。スポーツ選手の場合は、この時期に次の復帰準備期で実施したいステップ動作の練習などを円滑に実行できるための基礎的な運動機能の回復を図ります。
当院ではバランスシューズという道具を用いることもあります。これを装着し、シューズを水平に保つことで母趾球への荷重が強制されます。その状況下での正しい肢位でのスクワット・ランジ動作や簡易的なステップ動作行うことで、荷重時の腓骨筋の機能が高められ、足関節内反捻挫の再受傷のリスクを軽減させることができます。
・復帰準備期(スポーツ選手の場合)
この時期では、KBW(knee bent walking)及びその発展型のステップ動作の習得の訓練を進めつつ、徐々にランニングを開始します。ランニングは段階的に走速度を上げつつ、スタートダッシュやスラローム、カッティング、ストップ動作などを織り交ぜたより複雑な課題へと進めます。
これらの動作がすべて痛みなく行えること、危険な動作肢位が出現しないこと、医師の許可があること、これらが競技復帰の条件となります。
また当院では、上記の条件に加え、しゃがみ込みでの足関節背屈と正座での足関節底屈の疼痛が完全に消失していることを評価することもあります。
○まとめ
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以上に記載したリハビリテーションは、全体の流れの一例であり、すべての方にあてはまるものではありません。また、これらの流れを妨げる種々の障害を取り除くために専門のリハビリテーションが必要になるため、足関節に限らず、筋や関節に痛みを生じ、自身での解決が困難な場合は、積極的に整形外科を受診してみてはどうでしょうか。
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参考文献
スポーツ外傷・障害の理学診断 理学療法ガイド 編者 臨床スポーツ医学編集委員会
筋骨格系のキネシオロジー 原著者 Donald A. Neumann