医療法人社団ヤマナ会 東広島整形外科クリニック

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東広島整形外科クリニックHP委員会学術コラム「腰痛」

腰痛とは

国民の訴える最も多い症状である腰痛、皆さんの中でも多くの人が経験されたことがあると思います。なぜ、これほどまでに多くの人が腰痛に悩まされるか・・・それは二本足で立って生活し始めた人間の進化に原因があります。それまで4本足で立って背骨が水平であることからあまりストレスがかかっていなかったのに対し、二本足で立つことで背骨が地面に対し垂直方向に位置し垂直方向に多くのストレスが加わるようになりました。また、腰は上半身の重みも支えねばならなく上肢で物を持ったりすることで更なるストレスや非対称的なストレスが加わってしまっています。腰痛はそんな進化をしてしまった人間の宿命とされています。

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腰痛の原因

「生活・仕事状況」
 腰にかかる負担は姿勢や動作によっても変わってきます。椎間板という背骨の間にあるクッションにあたる部分への圧力を指標にすると真っ直ぐに立った時の圧力を100とすると仰向けでは25、横向きでは75になります。これに対し、上体を前に軽く傾けると150、椅子にまっすぐ腰かけると140、椅子に腰かけて前傾すると186の圧力がかかるようになります。つまり、椎間板にかかる圧力が立っているより座った方が高くなるのです。

日常生活で物を持ち上げる際も、椎間板にかかる負担は持ち上げる重量が増えれば比例して増加します。また、椎間板への負担は上半身の前傾する角度が大きくなるほど大きくなります。例えば、50キロの荷物を90度に体を前屈して持ち上げると700キロもの負担が腰にかかってきます。さらに、真っ直ぐにした正しい姿勢に比べ背中を丸めた悪い姿勢だと椎間板の許容量は2分の1しかありません。これが、不用意な姿勢で物を持ち上げた時に腰を痛めやすい理由です。

また、運転などの座った姿勢を保持する際に注意が必要です。良い姿勢で座っている場合は椎間板には均一のストレスがかかりますが、悪い姿勢で運転していると椎間板には変形が生じ不均一なストレスが加わってしまい傷みやすくなります。

不用意な姿勢で物を持ち上げた時に腰を痛めやすい理由

「身体の歪み」

体を支える背骨(脊柱)は、上から頸椎、胸椎、腰椎、尾椎に分けられています。後ろから見ると縦にまっすぐになっており、横からみると頸椎と腰椎では前方に凸の緩やかなカーブを描き、胸椎と尾椎では後方に凸の緩やかなカーブを描いています。これを生理的弯曲といい前方に凸のカーブを前弯、後方に凸のカーブを後弯といいます。

本来、人間はこの生理的弯曲によって椎間板への直接的なストレスを減らし、筋肉にとっても最も疲れず姿勢を保持することができています。ですが、腹筋や背筋といった体を支える筋力の低下や生活や仕事での習慣により姿勢が悪くなってしまうと、この弯曲のカーブが増大したり、または小さくなって異常な弯曲を引き起こし腰痛を引き起こしやすくなります。代表的なものとしては以下が挙げられます。

  1. 凸円背:背中が丸まり腰を反らすようにお腹が突き出た姿勢
  2. 円背:背中が丸まり骨盤も後ろに傾き腰部の生理的な前弯がなくなる
  3. 平背:背筋が真っ直ぐになってしまい弯曲がなく、ストレスを受けやすい
  4. 凸背:腰に比べお尻が後ろに突き出し腰が反った姿勢

また、前後だけでなく左右での脊柱の弯曲も不良姿勢により引き起こされ側弯が生じてしまうこともあります。それにより腰椎に左右不均一なストレスが加わってしまったり、腰背部の筋肉にも不均一な緊張が生じてしまいます。
加えて、不良姿勢により脊柱とつながる骨盤にも歪みが生じてしまい痛みを生じ+させてしまうことがあります。

骨盤の歪み

「加齢」
背骨は7割は椎間板で、3割は背骨の左右の関節部(椎間関節)で支えられるため、まずはじめに椎間板が傷んできますが、傷む原因として最も多くを占めるのが加齢です。椎間板とは骨と骨の間を支えるクッションのようなもので非常に弾力性がある組織であり、これは中に多くの水分が含まれていることによるものです。生後間もない時は90%程度含まれていた水分は70歳頃になると65%程度に減少してしまい椎間板本来の弾力性を失います。この結果、外から加わる力により椎間板の線維組織に損傷が加わりやすくなってしまいます。その椎間板の損傷によって、圧により潰れて中から飛び出した組織により神経が圧迫されてしまう「ヘルニア」や、椎間板の厚みが減ったことにより関節自体にストレスが加わり痛みを引き起こしたり腰椎の変形を助長したりします。これに関しては、体を支える体幹の筋力が加齢により弱くなってしまうことも腰への負担を助長してしまう要因であることが考えられます。
 このような椎間板や椎間関節の変性により背骨の支えが弱くなり、加えて背骨に異常な運動が出現すると、背骨を支えている背筋や腹筋に多大な負荷がかかり腰痛を引き起こすという二次的な痛みの発生を引き起こすこともあります。
 また、加齢によって骨量が減り骨粗しょう症になり骨が脆くなってしまうとくしゃみや急な動きなどで腰椎の圧迫骨折が生じてしまいやすくなります。

腰痛における検査法 ~NEW~

 ・レントゲン検査:腰椎のレントゲン検査は基本的に正面像、側面像と両方の斜位像の4方向から撮影します。さらに必要性があれば、前方に腰を曲げた側面像と、後方に腰を反らせた側面像の2枚を追加します。(機能撮影)レントゲン写真からは、椎間(背骨の間)が狭くなっていないか、椎間関節に変形がないか、分離症がないかなどを判断します。

・MRI検査:もし、椎間板ヘルニアなどが疑われればMRI検査を行います。MRIではレントゲンでは写らない椎間板や脊髄などを画像として写し出し、より詳細な情報を得ることができます。この検査は通常仰向けに寝ているだけで済み痛みなども伴いませんが、時間としては30~40分程度かかります。また、MRI検査は強力な磁場の中に入って行うため、心臓ペースメーカーをつけている人は行うことができません。

腰痛の種類

「腰痛を起こしている部位による分類」

  1. 椎間板ヘルニア:椎間板が圧迫ストレスにより潰れて内部の組織が神経が通る脊柱管内に突出し、神経根を圧迫し下肢の痺れ等を引き起こします。背中が丸まっている円背姿勢の人などに起きやすいです。
    椎間板ヘルニア
  2. 椎間板症:椎間板が水分を失い、軽度に変形・変性して痛みを引き起こす状態です。
  3. 変形性脊椎症:加齢による椎間板の変性により腰椎にストレスが生じ、骨の出っ張り(骨棘)を作り痛みが生じている状態です。
    変形性脊椎症
  4. 分離症:過度な動き・ストレスにより腰椎の後方部分に疲労骨折が生じ分離してしまい、脊椎が不安定になり痛みを生じます。激しい運動をする若年者にも多いです。
    分離症
  5. 分離すべり症:分離症が悪化して、分離している腰椎が前後に滑りずれることにより関節や周囲組織へのストレスや神経を挟むことで神経症状をきたします。
    分離すべり症
  6. 筋・筋膜性腰痛:単純に腰部の筋や筋膜が損傷を受けたり、または過度に疲労・緊張して痛みを発する状態です。
  7. 脊柱管狭窄症:腰を反らした姿勢が習慣化していることや加齢による骨や靭帯といった組織の肥厚等により神経の通り道である脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されて腰痛や下肢痛が起こります。間欠性跛行(かんけつせいはこう)といい、長時間歩くことで腰で神経が圧迫され下肢の痺れが生じ歩行困難になるが、座ったり屈んで休むとまた歩けるようになる症状が特徴です。腰を反らすことは難しく、前に屈むのは比較的楽なことが多いです。
    脊柱管狭窄症
  8. 仙腸関節痛:骨盤帯の歪みにより左右の骨盤と中央の尾底骨を繋ぐ靭帯にストレスが加わり痛みが生じます。

「疲労が原因の腰痛」 ~NEW~

  上記のレントゲンやMRIの検査で特別異常が認められず、痛みの原因が主に腰背部の筋肉の疲労や炎症にあると考えられる場合、医学的には筋・筋膜性腰痛(あるいは腰痛症)と診断されます。構造的な問題はないものの、姿勢、動き、柔軟性、筋力、バランスなどの機能的な問題が原因で、痛みを発する部位に負担がかかっていることが多く見られます。また、その影響により腰椎の変形や椎間板などの組織が変性を起こし後に重度の腰痛に悪化してしまうケースも多く見られるので、現在は検査で異常がないからといって軽視せずに対処していかなければなりません。

  疲労性の腰痛のタイプを痛みが強くなる状況から分類すると、

 ・安静タイプ:長く立ったり座っていると痛み・重さが強くなり、軽く動いてるほうが症状が軽い。

 ・運動タイプ:前後屈や側屈・回旋すると痛い、座位などから立ち上がる際に腰が伸びにくい、洗顔などの中腰をとると痛い、振り向く動きなどで不意に痛む。

 といったように分けられます。

  安静タイプに関しては、この痛みは腰部の筋肉が長時間緊張し続け、筋が疲労して血行が悪くなるために起こります。これには、その際の姿勢が大きく影響しており腰が反りすぎていたり逆に丸まっている姿勢、背骨の位置が骨盤の中央から左右にずれてしまっている姿勢などが該当します。また、ある一方に体重が乗りやすいか背骨が骨盤に対してその一方に寄っている状態の人はその逆側の脚を上に組みやすくなるといったように、このような習慣が腰背部の筋肉の慢性的なストレスを生むだけでなく姿勢や腰椎の変形、動作にも影響を及ぼしてしまいます。

「発症からの経過による分類」

  1. 急性腰痛:明らかに腰を痛めたきっかけがあるものでいわゆる「ギックリ腰」です。腰椎や骨盤付近の関節に瞬間的に過度なストレスが加わってしまい発症します。それだけでなく姿勢のズレによって局所にストレスが集中しやすくても生じやすくなります。主に周囲の靭帯等の組織に炎症が生じてしまっているので炎症が治まるまでは安静や炎症箇所へのアイシングが推奨されます。
  2. 慢性腰痛:いつ痛めたのかはっきりとは分からず、長期間常に腰痛がつきまとっている状態です。主には姿勢の歪みや筋力の低下により腰の筋肉や関節に負担がかかっている傾向に身体が置かれていることが多いです。日常生活やスポーツもある程度可能ですが疲労の蓄積や痛みに対するケアが求められます。

「動きによる分類」

  1. 伸展型腰痛:椅子からの立ち上がりや後ろにのけ反る動き、つまり体を伸ばす動作で痛みが生じる腰痛です。脊椎には生理的な弯曲(S字)がありますが、身体を伸ばす動作では腰椎の前弯(前に凸のカーブ)が増し、腰椎に負担がかかります。股関節前面の筋肉が硬く、反らす際に股関節を引くことができず腰椎だけで反らそうとして過度な負担がかかっていることが多いです。また、背中が丸まっている姿勢等の影響から肋骨が開きにくく、胸椎つまり背骨のより上方からの動きが出ず腰椎の下方のみに動きが求められているケースもあります。日常的な姿勢としては腹筋の緊張が弱いこともあり腰を反らすように姿勢を支えている人がなりやすい傾向にあります。
  2. 屈曲型腰痛:立位から屈んで下の物をとる動き靴下を履くときなど、体を前に曲げる動作で痛みが生じるタイプの腰痛です。お尻の筋肉やももの裏など股関節の後ろにつく筋肉が硬くなり、屈む際に股関節の動きが出ず腰椎に過度な動きが求められるということが多いです。

腰痛を引き起こす整形外科以外の原因 ~NEW~

 ・急性:循環器疾患-腹部大動脈瘤

     泌尿器疾患-腎結石、尿管結石、急性腎盂炎

     消化器疾患-胆石症、急性膵炎、胃・十二指腸潰瘍の穿孔

     婦人科疾患-子宮外妊娠

 

 ・慢性:泌尿器疾患-遊走腎、嚢胞腎

     消化器疾患-胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、肝硬変

     婦人科疾患-子宮内膜症

     精神科疾患-解離性障害、心気症、心身症、etc..

当院で行う治療・・・

  1. 緊張の緩和:過剰に緊張して痛みを生んでしまっている筋肉の緊張をマッサージなどで和らげます。
  2. 姿勢の矯正:身体の歪みによりストレスがかかってしまう箇所が生まれてしまい痛みを引き起こしてしまっている場合、歪みを引き起こしている組織があればそれを取り除き、部分的に筋力の低下が起きている場合そのバランスを整えるなどの方法でその歪みを修正し痛みを和らげます。
  3. 支持性の向上:身体を支える力が弱く腰部の筋肉や腰椎に負担をかけ痛みを引き起こしている場合は、腹筋や背筋さらに臀部の筋肉といった身体を支える筋力を発揮できるようにエクササイズを交えてリハビリしていきます。
  4. 動作・姿勢の指導:日常生活や仕事において負担のかかる動作を行い慢性的に痛みを抱えてしまっている場合、負担の少ない動作の指導を行い日常的な負担の軽減を目指します。
    また、生活の中で前述したような不良姿勢や脚を組む、身体を捻っているといったような身体の歪みを生んでしまう姿勢をとっていた場合、正しい姿勢の指導を行っていきます。

 

引用文献
1) 「専門医が治す!腰痛」  著者:三木英之、蒲田和芳

2) 「運動機能障害症候群のマネジメント」 著者:Shirley A. Sahrmann