医療法人社団ヤマナ会 東広島整形外科クリニック

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研究に基づいたストレッチの認識

 

 以前のコラムにてストレッチの種類・効果・タイミングについてお話しさせていただきましたが、今回は最近の研究に基づいたストレッチの認識についてお話しさせていただこうと思います。

 ストレッチに関しての考え方・実施状況は各々違っていることが多く、一般的に共通の認識が得られておらずその団体や指導者が自ら決めて行っていることが多いです。また、練習前にただゆっくり筋肉を伸ばすだけのストレッチ(静的ストレッチング)は良くないと聞く、などそういった不確かな話・疑問をよく耳にします。そのため今回は、そういった疑問に対して行われてきた研究により導き出されたより信頼性の高いストレッチに対する知識・認識を紹介したいと思います。

 

 

「スタティックストレッチングが直後のパフォーマンスにマイナスの影響を与えるのか?」

→これは多くの研究・論文上で認められていました。変化のない場合も見られたようですが、パフォーマンスの向上を認めたものはほぼないようです。

パフォーマンスに関する指標は「筋力」が多く、結果としても低下しやすいのは主に筋力のようです。

 

→しかしこれらの多数の研究には、研究内でのストレッチング時間が計20分を超えるなどスポーツ現場での方法としては非現実的なものも多く含んでいるなどの問題点も多いようです。

 

→メカニズムとしては、筋肉自体を引き伸ばすといわゆる筋腱の剛性が低下し筋にとって大きな力を発揮しやすい適切な長さが変化した結果力が入りにくいというものです。

また筋を伸ばそうとしてスタティックストレッチングを行うと、自原性抑制と言われる筋をリラックスさせて伸ばす反射が神経筋に作用し、その結果リラックスした筋に再度力を入れようとしても大きな力の発揮が難しくなるというものです。

 

→最近の研究ではストレッチの時間も考慮し時間ごとの筋力への影響も検討されています。結論から言うと、30秒以上一つの筋群を伸ばしてしまうと筋力が低下する、つまり伸張時間が長くなるほど筋力は低下するというものです。

詳細としては、研究では30秒未満とそれ以上で区切ると、30秒以上だと6割以上で筋力、パワー、ジャンプ、短距離走などのパフォーマンスが低下するとなっています。                            

このようにストレッチングのトータル時間とパフォーマンスの低下率とが相関するので、トータルでもあまり長い時間、つまりセット数と時間からみた量を多くしない方がいいと思われます。

 

→陸上競技の跳躍種目等競技間でインターバルが入り行う形式の競技では、競技間にはスタティックストレッチングよりも軽いジャンプのみを行う方がジャンプ力は向上するとされています。(ジャンプ>ストレッチング+ジャンプ>ストレッチング>何もしない)

そのため、ダイナミックストレッチングの後でも30秒以上だとスタティックではパフォーマンスの低下を招くため、補助的に15秒程度入れたりコンディション(柔軟性等)のチェックで行うといいようです。

 

「ではスタティックストレッチングは何のために?傷害予防のため?」

→教科書的には傷害予防ですが、研究上ではしていない場合との差つまり有効性を明らかにはできていません。  ただ、関節可動域やリカバリー・疲労回復に関しては有効性が認められています。

 

→健康の保持増進に対するスタティックストレッチングの効果も認められており、(柔軟性、筋量、筋力、筋持久力、運動能力全般)そのため運動の直前でなければ積極的に行うことが推奨されます。             

具体的には、トレーニングの合間の日にスタティックストレッチングを行った方が上昇度が高く、筋量の維持にも効果的とされています。                                          

また、トレーニングをしていて中止したとしても、その筋肉に対するストレッチを継続すると筋量は落ちないとされています。メカニズムとしては筋が伸ばされる刺激で成長因子が発現する、となっています。

 

「スタティックストレッチングを行うことで身体をリラックスさせられる?」

→自律神経活動で見ると、ストレッチングを行うと副交感神経活動、つまりリラックスを司る自律神経活動が高まることにより、入眠がスムーズになるなどの効果が得られるとされています。                  

裏を返せば、運動前のスタティックストレッチングはこういった自律神経系の活動の影響で直後のパフォーマンスを下げている可能性が考えられます。

 

「高齢者や健康を害している人へも有用な効果が得られるのか?」

→生活習慣病に対する影響が研究されており、糖尿病の患者を対象として糖質を摂ったあとの血糖値の変化をみています。スタティックストレッチングを行ったグループは血糖値の下がり方が大きくなったという結果が得られています。

メカニズムとしては、ストレッチングで糖を利用し血糖値が下がるとされておりストレッチでも糖が筋へ取り込まれるという結論に至っています。

 

血管を柔らかくする効果を認めた研究も行われています。元々、中高年の方には身体の柔らかさと血管の柔らかさの指標に相関関係があり身体の柔らかい人ほど血管が柔らかいといった関係があるようです。

 

「身体が柔らかいことでの走ることへの影響はあるのか?」

→これに関しては身体が柔らかいとランニングにおけるエネルギー消費量が大きいとしている研究があります。長距離ランナーでいえば特に足関節の柔らかさがエネルギーの無駄遣いに繋がりやすいとされています。 

メカニズムとしては、柔らかすぎると結局自分で止める動きにより筋を収縮させてしまいエネルギー消費量が増えると言われています。

ただ、競技者にとってはデメリットですが、肥満予防等にはエネルギー消費量が増えることは逆にメリットともとれると考えられています。

 

→高齢者の場合は歩行動作も改善されスムーズに歩ける、歩行速度が上がるという報告もされています。

 

「運動前に推奨されるダイナミックストレッチとは?」

→ダイナミックストレッチングは伸ばそうと思った筋肉の反対側、いわゆる拮抗筋群にしっかりと力を入れることを意識し重力に反した動きを用い、相反性抑制を利用して上手く伸ばす方法だとされています。

適切な量は、10~15回を1~2セットという結論が多く、それより回数が多くなるとパフォーマンスは向上しない傾向にあるようです。

動作の速度に関しては、速いスピード(テンポ・ペース)で行う方がパフォーマンスは向上しやすいとされています。そのため、実践的なものとしては最初は準備・可動性の確認も含めてゆっくりと大きく動きを確認、それから段々と素早く力強い動作を意識して行うことが有効な方法かと考えられています。

 

 

まとめ:これまで記述した内容からするとスタティックストレッチング運動前以外の実施だと色々な良い効果がある、だが運動前にするべきものではない!と極端に認識されてもおかしくありません。ただし、研究によって元々の柔軟性など細かい条件が違っていたりするので一概には言えません。また、スポーツのパフォーマンスに関しても競技種目も各々違っており、競技によってはより筋力に依存するもの、可動域に依存するものとそれぞれ存在しているため柔軟性を出すことが競技的なパフォーマンスにつながることも多くあると思います。

 つまりは、運動前のスタティックストレッチングはダイナミックストレッチングやその競技の専門的なウォーミングアップと組み合わせて、自分の感覚・競技に合わせて時間やタイミング、強さを決めていくことが大事だと言えると思います。

 

 

 

参考文献:月刊スポーツメディスンNo.151