関節リウマチ治療に対し生物学的製剤を如何に使うべきか(理事長私見)

 3月の末、当院の久外来師長が新潟県立リウマチセンターへ招聘され、看護士の立場で生物製剤投与時の注意点について話す機会を得た。センター長の村澤章先生は私の長年の友人でもあるが、開口1番、あなたの病院は生物製剤を20-30%? それとも、もっと使っているのですかと聞かれたという。師長は私のところは生物製剤に関して、我が国で最も早くから関わってきましたが、未だ7-8%に止まっています。しかし、患者さんの満足度は極めて高い(QOL{生活の質}がいい)ですよと答えたという。急に雰囲気が和んで、講演会は医師を含めて活発な討議が行われたという。

 最近は生物製剤の講演をされる先生方は、50%以上の使用を競っているかの如き講演をされることが多い。私はその都度、何故そんな必要があるのか、また、そうしなければならない必然性があるのか考え込んでしまう。私の8年間の生物製剤使用の経験をもとに、第一線の医療機関におけるその適用について私見を述べてみたい。

 生物製剤は今や4剤時代を迎えている。その効果は素晴らしく、骨破壊を抑制、阻止し、再生すら促す。その結果、人類の歴史始まって以来、難病中の難病と考えられてきた関節リウマチが現在では並の病気に格下げされつつあるのが現状である。しかし、2003年のTNFα阻害剤の発売以来6年が経過するが、メトトレキサート(MTX併用)でもその寛解導入率は50%以下である。IL-6阻害剤を含めて次なる生物製剤が待たれるところである。生物製剤を使用する際はその影の部分も知った上で使わなければならない。強力な免疫抑制剤であり、感染症の危機が一挙に高まる。その感染は気道から肺に集中し、生命に関る肺炎・間質性肺炎を誘発する。MTXと併用されることでその発症率はさらに増加する。副作用が肺に始まって肺に終わるといわれる由縁である。

 関節リウマチの治療は患部の安静、関節の可動域の保持とストレスの除去が基礎療法である。それにNSAIDs,少量のステロイドホルモンが必須である。早期受診者は(window of opportunity{治療のチャンス}にあたる)MTXを含む従来薬でも骨破壊の遅延は十分期待される。また自然軽快する短周期型か本来の軽症タイプかの識別もこの間にできる。

 我が国の患者さんは手がこわばる、何となく痛む、リウマトイド因子陽性、血縁にリウマチがいるなどリウマチモドキの状態から専門医を受診し、超早期受診が常態化している。このような患者さんは関節リウマチを発症しても良好なQOLへの導入は容易である。

 一方、生物製剤は骨破壊を遅延、阻止し破壊された一部の骨の再生により機能面の修復ひいては痛みを減退、消失させる力を有している“優れもの”である。このことは骨破壊が高度に進行し強い炎症を伴っている場合でも同様である。2008年2月の学会指針で骨びらん(骨の欠け)があれば生物製剤を使ってよろしいとの適用拡大がなされたが、少数の骨びらんの進行、軽度の骨破壊など取るに足らない問題である。MTXを含む従来薬で患者さんのQOLが満足いくものであれば、多少の骨破壊は問題ではなく、関節の変形、機能障害につながる恐れが出た時点で生物製剤で対応すればいいとも言える。決して使い急ぐ必要は無い。勿論、患者さんが希望し適用があればその限りではない。

 私共は寝たきり寸前のムチランスレベルまで進行した活動性の高い70歳代後半の症例にIL-6阻害剤を使用し、観劇が楽しめる状況にまで回復した症例などを多く経験している。20歳代で骨びらんを認めた軽症患者さんに生物製剤を使用、それからの50年間どうするのか。生物製剤の効果寿命は薬剤にもよるが一般に数年と短かく、脱落も多い。どのように使い続けるのか。生物製剤同士の併用療法を行うのか。自然寛解する10-15%の短周期型をそのなかに含めたまま使い続けるのか。薬価は相変わらず高額である。医療経済学的に国民皆保険の破たんに我々自身が手を貸すことにもなる。生物製剤が使われ始めて我が国で約6年、欧米においても10年余りである。我々は患者さんを免疫不全状態下の未知の世界へいざなっているということを忘れてはならない。これから我々に回答が与えられる。

 新規の優れた生物製剤の開発は予想以上で、今まで述べたことは杞憂に過ぎなくなる時代が来るかも知れない。現時点では以上述べたごとく、生物製剤適用に対する考えは2極化している。生物製剤の特質を十分にわきまえて適用をケースバイケースで考える専門医が求められるのである。